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更新日:2018年9月10日

新しい「学園の教育目標」を読み解く1 柳瀬泰学園長に聞く

「何のために学ぶのか」という問いに答えるために

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――まず、どうして「学園の教育目標」の改訂が必要だったのかということからお聞きしたいのですが。

柳瀬:三鷹の森学園の10年の周期と、学習指導要領の改定が行われる約10年の周期がほぼ同時期のサ   イクルだということに気がついたんです。現在の学園教育目標をつくったときはおそらく平成20年度版の学習指導要領がベースになっていて、それで10年やってきた。学習指導要領の目標は社会の変化とリンクしていて、常に10年先の社会を見据えてつくられている。そこで求められている資質・能力というのは、子どもたちが10年後に、親の手を離れて、自分の翼で飛び立つときに発揮できる力なんです。すべての教育活動はその目標に向かって一丸となって進んでいく必要がある。学校はもとより、家庭も、地域も。三位一体で、子どもたちが10年後に羽ばたいていける力を身につけるために、教育目標をここで改定して、その目標に示された資質・能力を育てる教育方法を、みんなで工夫しようと。その第一歩にしたかった。そういう新鮮な気持ちで次の10年先の教育に向き合いたかったんです。

――学園の教育目標が変わっても各学校の教育目標は変わっていませんが、それは学園の教育目標が学校の教育目標を網羅しているからですか?

柳瀬:「学校の教育目標」はつくられた当時の背景もあるし、これまで歴代の校長先生、多くの教職員がこの教育目標でやってきたものです。建学の精神のようなもの。でも、「学園の教育目標」はコミュニティ・スクールとして皆で議論しながら変えていける。次の10年の節目にはまた見直していいと思うんです。三鷹の森学園ではこの先求められる資質・能力とか人間像を見極めて、その時々に合った教育目標に改善し、その育成に向けて教育課程を再構成していく、というやり方が時代に合ったコミュニティ・スクールではないかと思います。

――「学校の教育目標」は、子どもたちが理解できるような文言にしているんですか?

柳瀬:子どもにも伝わるように目標を掲げてあります。

――ある意味、時代が変わっても変わらない、普遍的なものですか?

柳瀬:いつの時代にも求められる人間像が「学校の教育目標」に掲げられています。そして、それを育てるための方法が「学園の教育目標」。今回の改正はそういう理解の仕方でよいと思います。

――今回の指導要領の改訂について、どこが大きく変わったと思われますか?

柳瀬:まず、今回の改訂はあまり変わっていないと言えます。理由は、各教科における内容の入れ替えがほとんどない、ということです。これまでの学習指導要領で話題になるのは、小6の学習内容が4年生に下りるとか、小5でやっていた内容が中1に移行するとか、そういう内容レベルの組み換えだったんです。その組み換えが今回は少ない。
新しい学習指導要領の目玉は、目指す資質・能力が、小学校・中学校・高校12年間で連続した目標になったことです。これは大きな変化です。指導要領というのは小、中、高それぞれにあるのですが、たとえば今回の指導要領では教科の総括目標が最初に示されています。算数だったら、「数学的な見方・考え方を働かせ、数学的活動を通して数学的に考える資質・能力を次のとおり育成することを目指す」とあります。実はこの教科の総括目標が、小学校も中学校も高校も全部同じなんです。さらにその下に具体的な3つの目標があります。ここは校種ごとの発達段階に応じたものとなっています。だから、目標を読むだけで、小学校から高校まで12年間、一貫して育てるべき資質・能力が読み取れます。
そうすると次に重要になってくるのは、そうやって小、中、高で育てた12年間の学力と、大学の接続はどうなるのかという問題です。12年間の学校教育で育てた資質・能力をいかに大学入試に反映していくか、これは重要な問題です。

――2020年度以降、大学入試が変わるというのは、それが関係しているんですか。

柳瀬:そうです。小・中・高校で学んだことが大学入試に反映されないと、学校で学び続けた12年間は何だったんだろうか、と子どもたちは思うでしょうね。

――大学受験も、高校までの積み重ねができている子が大学に入れる、というのがあるべき姿だけれども、今、そうでない面もある。そのギャップをどう変えていくか、ということですか。

柳瀬:その通りです。

――学園の教育目標をどのように教育課程に落とし込んでいくかというところで、私はたとえば「問題解決力」とか「コミュニケーション力」は、総合の授業で育てるのかと思っていたんですが、そうではなくて、算数でも国語でも、全部の教科で育てるんですよとお聞きしたのですが。

柳瀬:たとえば「問題に素直に向き合う態度」とか、「問題を発見する見方・考え方」とか、「人生をたくましく切り拓く力」などの「生きる力」はすべての教科で育てることができます。算数だって、計算力だけを求めているわけではありません。

――ただ、「算数で人生を切り拓く力をどう身につけるか」と言われると、保護者としては答えに窮します。

柳瀬:一般的には「算数」というと、買い物に行き、引き算を使って、正確にお釣りをもらってくる力、と思われていますね。(笑)

――その例えはわかりやすいです。「生活ができる力」というか。

柳瀬:戦前とか終戦直後は、それも大事な「生きる力」でした。八百屋に行き、魚屋に行き、肉屋に行き、乾物屋に行く。順番に引き算ができればよかった。4桁くらいまでの引き算ができれば日常生活はなんとかなりました。でも、今はレジがやってくれます。一の位まで正確に計算して購入している人は稀です。でも、ゼロの数や千の位ぐらいは確認していますよね。レジで1500円請求されるのと15000円請求されるのは大違いです。そういう意味では「正確な計算力」以上に「結果をざっくり見積もる力」が大事ですね。

――悪い人にだまされないとか、そういう基本的な「生きる力」と考えると、それも不可欠ですよね。明らかにおかしな数値が出ているということに、算数の力があれば気づけるわけですから。

柳瀬: 数量に関する感覚を育てたいですね。「生きる力」という観点で言えば、たとえば、まことしやかに示されたデータを批判的に読み取る力などは大切ですね。あるいは、目的に応じてデータを集めたり整理したり、データの特徴や傾向を考察したり予測したりするなど、実社会で活動する力を算数で伸ばしていきたいです。手間ひまはかかりますが、そういう学力を大事にしたいです。

――そこが塾と学校の違いですね。

柳瀬:学校としては主体的・対話的な授業を通じて「生きて働く学力」を育てたいです。

――子どもに「どうして勉強しなきゃいけないのか」、ちょっと説明できる気がしてきました。ありがとうございました。

(2018年7月14日、高山小学校校長室にて。取材:CS広報部)

 

 

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